農業はビジネスとして成立しない? 農業を10年やってみて分かった事 – 農家辞めます! 
toggle
2021-04-19

農業はビジネスとして成立しない? 農業を10年やってみて分かった事

 自分がこの家に入り婿で来てから10年、結婚する前からガッツリ目に手伝っていたのでなんだかんだ農業歴も付いています。その頃からメディなどでも囁かれていた『農業ビジネス』という言葉。これまでの3K的な家業から、ちゃんとした職業としての農業をしていこうと言う気運が高まっていました。

 結論から言いますと、日本の農業はまだビジネスにはできないと言えます。勿論、徐々にある程度の成功例やビジネスモデルも出てきてはいます。特に10年程前には農産物のブランド化がもの凄く流行って、猫も杓子もなんでもブランド野菜、ブランド牛、ブランド豚など、一時は乱立と言っても良いくらいでした。近頃は随分落ち着いたように感じますが。その流れを汲んで成功している例が多いように思います。

 では農業をビジネスとする事ができなかったものに関しては何がいけなかったのか…『10年そこそこのヤツに何が分かる!』と、怒られてしまいそうですが^^;むしろそんなベテランだけしか居なくなった農業界の端っこに居る自分だからこそ見える部分もあります。だからこそ『まだ』という言葉も入れてビジネスにはできないと言ってみます。

 我が家はもう先が見えています。どんなに長く続けてもあと20年が限界でしょう。実際にはそれよりも早く離農する事になると思います。そこにどんでん返しは無いです。そんな自分が、これから農業で未来を作っていきたい人へこの記事が届く事を願って書きます。

◆農業は『仕事』ではなく『家業』である◆

 家業とはつまりその『家』単位の生業です。大昔の士農工商の身分制度から見ると分かり易いと思いますが、日本では昔から『家』単位で職業としていました。今は『個人』単位で職業になっていると言えるかも知れません。

 厳密には更にそこに地主が居て、多くの農家は小作人として使役される存在でした。この時点で地主は領地を貸して生産者に耕作をさせて、上がりを分配して利益を出すビジネスマンだと言えるかも知れませんが、当の小作人達は地主の指示監督の元に作業を進める立場でした。決してむやみな上下関係だった訳ではないそうですが、現代の農家もそれと殆ど変わっていない所がビジネスとして向いていない第一要因だと自分は思います。

 我が家もあくまで問屋さんに出荷する一次産業者の立場ですが、その為に農地を広げて株式会社にして従業員を雇って取引先に出荷する…と、いうやり方は現実的ではないと思います。

●農家とは、農村という共同体の一部という存在

 農村という所は、そこだけで小さく独立した社会を形成している場所です。農家が居て、大工が居て、小さな商店があって、地主が居る。街や都会でも同じように様々な人が関わって出来上がっているのですが、街や都会は一人一人が自立して仕事や家を持って暮らしているのに対し、農村では今でも農村の仕事は農村の人で行う事になっています。例えばドブ掃除なら街の場合、行政が業者に委託して行ったりする事もありますが、農村や郊外地域では必ず自分達でやらなければなりません。消防団なんかもそのようなニュアンスで存在していますね。

 農村はそのような共同体社会なので、農業も個人でやっているものではないのです。自分の畑や田んぼは勿論自分でやります。ですが、それで自立していると思ってはいけません。特に田んぼの多い新潟では、土地改良区が大規模に田園地帯を整備したのでそこには莫大な税金が投入されていて、農業委員会が監督し、各部落や集落で農家組合が組織されていて、水路や農道の整備はその組合単位で関わります。今現在自由が効いているのは作物の出荷と、自家所有の農地の売買(それでも田んぼなら委員会が必ず間に入らなければならない)くらいですね。

●農家は徹底した立場主義

 我が家は幸い自分の家で肥料や作物を自由に作付けできていますが、少し離れた別の地域では農家組合が決めた作物を育て、組合が指定した肥料や農薬を組合から買わなければならない事になっている所もあります。当然ですが、拒否は出来ません。昔は農家組合の組合長が肥料屋から多額のバックマージンを受け取って、他の農家に肥料を高額で購入されていたなんて話もよく聞きました。

 若手農家と後無し農家は特に立場が弱かったみたいですね。そういう家は分の悪い田んぼを押し付けられたり、高額で資材を購入させられたり…そりゃ農村から人が居なくなるのも当然ですわ^^;。もし親が農家組合からそんな扱いを受けいるのを見たらドン引きですよね(汗)。ま、実際に見てきたのですが。

 今でこそ多い話ではなくなりましたが、地域で立場の弱い家は確実に存在します。地域の同業の中小企業同士でも似た様な事はあるのでしょうが、自力でなんとかできる事じゃないのが厄介な部分です。なんせ範囲がメチャクチャ狭い所で固定された人間関係の中で、皆同じ事をしているので。

●家を建てて住んでいる農村自体が職場である

 普通の人にとって家が建つ街は住む場所であり、安らぎの場所であります。むしろそうあるべきです。自宅が職場の人も、街自体が会社のようになっている事はそうある事じゃないと思います。ですが農村では、『農村という会社』と考えて良いと思います。生まれた時から住んでいる人にはあまりピンと来ないかも知れませんが、農村はもうそれ自体が株式会社みたいなものです。差し詰め農協や集荷業者や行政が株主でしょうか。

 その中で農地という自分の部署が割り振られて、その中で組合などでの役職が付いて、更に消防団や自治会という係が付く事になります。役職や係の仕事は勤めている会社の休日に行うのが普通なので、農村での暮らしはのんびりとはしていないのが現実です。この辺が農業はブラックと言われる本当の理由だと思います。

●農業は天候に左右されるから安定しない…は、間違っている

 これはいつの時代も言われている事ですね。確かに気象条件によって色々振り回される部分もあるのは事実ですが、そのような外的な要因に振り回されるのは別に農家に限った事ではありません。社員の給料は安定して支払われるでしょうが、会社その物の収益はいつも安定している訳ではありません。天候を理由に安定しないと言っているのは、天候に対するリスク管理をしていないか、そもそもリスクに対抗する事ができないのです。ビジネスにリスク管理はあって然るべきものです。ですが、農村の事情によってはみんな仲良く共倒れ、自分だけ助かろうものならどうなるか…なんて事もあったり無かったり^^;。

 気象条件による不作なんかでは、大きな組合では保険が適用されたりする例もあります。ある地域では、今後温暖化で作物の育ち方が変わる事を見越して、温暖な条件でも育つ作物を増やしてリスク分散を図っている所もあります。天候よりも共同体という事がリスクになりかねないのも、農業がビジネスになりにくい要因と考えて良いと思います。

◆農地を持って独自の取引先があっても決して自立ではない◆

 結局農業とは農村の生活そのものなので、ビジネスとするのはまだかなり困難な部分が多いと言えます。作物の売買は基本的に自由にしても良いという事にはなっていますが、あまり勝手な事をしてはいけないのも農村社会の隠れたオキテみたいなものです。特に利益が出るような行為は慎んだ方が、他の農家と角が立たなくて居住に支障をきたすような事を予防できるので、ある程度は意識した方が良いです。実際自分が住んでいる部落でも、生産したコメをネットで販売したり、定期的に買ってくれるお客さんに栽培の様子を見に来てもらったりと、とてもビジネスらしい取り組みをしている人が居たのですが、他の農家から定番の『アイツは儲けてやがる!!』が始まって、無視や連絡事項を回さないなどの嫌がらせを受けていました。

 農村は共同体の小さな社会です。一人だけ儲けるのは(本当に儲かっているかどうかは分からなくても)、例え誰にも迷惑をかけていなくても、気に食わない存在として扱われるのです。決して珍しい事だとは思わない方が良いです。

 地域の中小企業同士でも似た様な事はあると聞いていますが、会社というのはその外側から監視監督する存在があるのに対して、農家は全て各家同士の内々による関係に終始します。

●農業をビジネスらしく運営できるようになるのはまだ10年くらい先になりそう

 これから2025年頃に日本は『多死社会』をむかえると言われいます。現在多くいる高齢者が寿命をむかえる時代が来ると言われているのです。人の増減は大きな時代の変化をもたらすとされています。言い方は悪いですが、長らく続いた古い時代が終わっていくと期待している話も聞きます。

 こと農業においては、農地を集約して耕作規模を拡大するチャンスが訪れると考えられています。特に稲作はスケールメリットが収益の根幹なので、今からそのチャンスを掴もうと下地を整えている後継ぎ持ち農家も多いです。実際に業界では数年前から農地集約の為の優遇税制などの有利な制度や助成が多く施行されています。

●キーワードは世代交代

 事情は地域によって異なるでしょうが、抱えている問題の根本は同じと思います。もし農業をビジネスとして育てたいと考えるなら、20代の内に主体的にやらないと先々時間が足りません。若い者が大事と言う割には、あまり早くに任せると年寄の仕事や楽しみを奪ってしまいかねないので、世代交代が進まないで来ました。それもこれも全て『農業は仕事ではなく家業だ』という考え方が根底にあります。

 農業をビジネスにするには世代交代が重要です。もっと言うなら時代交代でしょうか。そうしないと根本的な考え方が変わりませんから。駄文拝読に感謝いたします。

タグ: ,
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です