歴史的物価高・『農家さんはいいねぇ…食うモンに困らんで…』って言われるけど。。。 – 農家辞めます! 
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2022-12-10

歴史的物価高・『農家さんはいいねぇ…食うモンに困らんで…』って言われるけど。。。

 農家は自力で食料を生産できるのがある意味で最大の強みでもあります。どこのご家庭でも鉢でちょっとミニトマトを育てるとか、買った大根の菜っ葉をまた水に浸して生やすとか、それくらいはできるのでしょうが、例えば米なら一年分とか、野菜などは季節ごとにガッツリ腹いっぱいの量とか作れるのが農家ならではですね。

 今年(令和4年)は歴史的な円安、世界的インフレ、それに伴って日本では記録的な物価高に見舞われています。これまでも何度となく似たような時代がありましたが、そのたびに言われるのがタイトルのような事です。

 確かに間違ってはいません。特に我が家のような生産農家は、小さな畑だけでやっている特に出荷もしていないタイプの小さな農家と違って、自分の家の食料の殆どを自分で賄う事ができます。それでも自分で作れないチーズとかオリーブオイルとかはさすがに買いますが、野菜類を買う事は殆どありません。真冬に小松菜を買うとか…なら稀にありますが。

 でもそれって言われる程羨ましい事なのか…結論から言うと、世の中『隣の芝生は青く見える』ことばかりなのです。今回はこの辺を掘り下げていこうと思います。

食料を自家生産できる農家は本当に強いのか

 かつて日本では、江戸のような都会を覗いてどこの家にもニワトリなどの家畜が居たり、小さくとも自分専用の畑があったり、集落で米を自給していたり、或いは漁村なら魚を獲ったりと当たり前のように食料を自家生産していました。

 因みに現代では『百姓』という言葉は主に農家を指しますが、本当は【百の姓が名乗れるほどなんでもできる(やる)人】を指すそうです。自分が小さい頃育った集落では、当たり前のように米を育てながら網で魚を獲り、畑には野菜が育ち、小屋にはニワトリが居て時にそれを〆たり、家や小屋は自分で造ったり直したり、土木仕事は勿論、水は自分で整備し、風呂は釜で沸かし、冬を超える為に塩引き鮭を干したり漬物を作ったり、熊や鴨を狩猟したり、春には山菜を採る。道具も自分で作ったり直したりなど、現代では誰かがやってくれる事を基本的には全部自分でやる、そんなライフスタイルが本当の百姓であるそうな。お陰様で自分は器用貧乏していますw。

自家生産が通用する種類は案外少ない

 米は自分で作っている…野菜も自分で作っている。それも結構な量を生産しているので、一年の中で殆どをそれで賄っていますが、かと言ってじゃあそれで十分かと言ったらそうでもないのです。

 例えば野菜で言ったら、葉物から根菜、豆類に至るまでそれなりに植えていますし、近しい範囲で売ったりもしています。

 ですが、例えば我が家の畑ではゴボウを育てるのは向いていないですし、ジャガイモなんかも出荷できるほど綺麗に育つモノはかなり少ないです。タマネギやブロッコリーはそれなりに育ちますが、人参なんかいつも全滅に等しいですWw。

 こうなってくると歩留まりは悪く食べる所も少なくなってしまいます。枝豆も実入りが悪く、とても出荷できるようなモノにはなりません。大根もそんなに良い物は育ちません。

 このように作れることは作れるけど、世間で思われている程賄えていないのが現状です。勿論、どんな野菜も上手に育てる方は居ますが、お店程なんでも用意できるかと言えばさすがにそんな事はありませんから。

野菜作りは時間も金もかかる

 当然ですが種は無料では手に入りません。野菜の大半はF1種と言って、種を取ってもマトモに育ちません。一代限りなので、同じ野菜を毎年作りたかったら、毎年種か苗を購入しなければなりません

 それ以外に肥料も必要です。背が高くなる種類には支柱などの資材も必要でしょう。効率よく育てるには時にマルチも使います。土作りにも元肥や、育苗から始めるなら培土も必要になります。虫や病気にやられないように農薬も必要になります。ウチの年寄りは除草剤大好きなので、薬剤や散布機には燃料やオイルなどに金がかかります。

時間

 そして何より一番絶望的なのが時間です。

 野菜作りと言って始めても、実際に収穫してテーブルに並ぶまで三カ月~半年とか平気で掛かります。なんなら冬を越すように栽培するタマネギとかなら八カ月とかかかります。自分で野菜を作って食料を賄おうとしても、タイパは最悪です。どう考えても現代社会においてこのやり方が賢いとは言えません。

 まぁ…その部分を社会的に賄っているのが我々農家なのですが、【仕事】というカテゴリで考えてもパフォーマンスが良いとは言えないのでやはり自家生産は効率が悪いのは事実と言っても良いと思います。

米はともかく野菜は日持ちしないモノが多い

 小松菜やホウレン草なんかはもう冷蔵庫とかに入れてても十日が限界でしょう。トマトは水モノの割にはもつ方ですが、別に半年とかはもちませんし。ナスやピーマンは意外と丈夫で、夏場の常温でも一週間とかもちますが、それでも一ヵ月とかはさすがに無理です。

 少しでも日持ちさせたかったら漬物にするしかないです。

根菜類と冬野菜は日持ちする

 大根やニンジンは晩秋に収穫すると、そのまま砂山にでも差しておけば翌春までもちます。ジャガイモも夏に収穫したものが冬の終わり頃までもったりします。

 サツマイモは保存方法を間違えると結構カビが生えてダメになってしまうので、スライスして干してしまった方が良いかも知れません。冬野菜と言えば白菜ですが、畑で雪の下にするので、野菜が生きた状態で冷蔵保存しているようなものなので、そのまま一冬余裕でもちます。

 保存が効く根菜類ですが、コレを一般家庭で沢山育てるのはさすがに無理がありますね^^;。大根なんて一本でも大変ですよ。。。

現代ではマトモに食料を自給しようとしたら時間も金もかかる

 当然の事なのですが米や野菜を育てるにはそれなりに手間も金も掛かります。あくまで我が家はこれを家業としてやっているからやってられるだけで、例えばコレを自家消費の為だけにできるかと言われれば、やってられませんってのがホンネです。自家消費の分は家業のついでに賄っているだけです。

結局残って堆肥になる

 野菜を育る事を趣味にしたいとかでしたら、むしろ趣味と実益を兼ね備えられるので良いと思いますが、そうでなければどう考えても必要な分を必要な時に買った方が早いですし、何より安いんです。

 自家消費分として作った野菜も結局毎年余って堆肥にしてしまいます。全体的にやるので個別の労力が無駄になったりとかは無いのですが、少しでもタイトルのように思う部分があるのなら実態としては本当に一長一短なのでおススメはしません。

 農家じゃない方からすれば、贅沢に見えたり羨ましいと思う部分もある事でしょう。そうでなければ『食うモンに困らんでいいね』なんて言われたりしないでしょう。

 ですがこんな時こそ【金額換算】する事が大事です。結構な金額をかけても全部を消費する事ができなければ当然無駄になります。仮に全部消費できたとしても、本当にそこまでするべきかは疑問です。足るを知るという言葉がありますが、必要な時に必要なだけ買うのが一番賢いと自分は思います。社会の一端としてなるべく多くの方がそれをできるように農家の自分は続けていける限りは生産を行いたいと思いますよ。

こぼれ話

 因みにこれは余談なんですが、漬物や干物ができるものは是非覚える事を強くお勧めします!。場合によっては冷蔵庫要らずで長期間保存ができますし、何よりロスを減らす事ができるので絶対に良いです!。

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コメント2件

  • のーおた より:

    土壌学を勉強してください。
    土は作るものです。
    物理と化学と微生物の知識があれば最小限の投資でしっかり収穫することは可能です。
    うちも農家ですがちゃんと黒字出してます。

    • Dai より:

      のーおたさん、コメントありがとうございます!
      ですね!世の中まだまだ勉強が足りない事が沢山です!一生勉強です!

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