余りに根深い田んぼの水引問題
去る令和4年5月の末時分、山陰地方で正当な理由無く鉈とカマを携帯した疑いで男が銃刀法違反で逮捕されたというニュースがありました。
男は『田んぼの水を引いている奴が今日もやっている。今から行く、警察も来い』などと警察に電話、駆け付けた警察官に現行犯逮捕されたというニュースでした。
あぁまたか…昭和も終わって平成も終わり、令和に代わった事も特に話題にならなくなったこの時代でも毎年必ずこの手の話が出て来るな。個人的にはそんな感想でした。
我田引水、水争い
遥か昔から農業と水は切れない問題でした。ただこの水の話、語られる話の殆どが天候に関わる事だけで、天候よりもずっと恐ろしい『人』の問題がまるで臭い物に蓋をするかのように語られる事が避けられてきました。
上記のニュースはこれだけ聞くと何らかの揉め事でキレた男が警察にわざわざ『これからやるぞ!』と予告して逮捕されたイカれたニュースのように見えますが、我々農家からしてみたら大なり小なりあるあるで、自分個人としては正直逮捕された男に同情の余地すらあると思える内容なのです。
ニュースでは事件の背景に何があったのかは報道されていませんが、農家なら容易に想像がつきます。
個人的な推察ですが、積年の問題を抱えとうとう我慢も限界になり、事を起こそうと決めたのでしょうが、それは人として正しくない事は重々承知。だから事を起こす前に自ら通報して騒ぎにすると同時に自分を止めてもらう…少々無理はあるでしょうが第三者に関わってもらう事でそうしたかったのではと思います。
なぜ水で争うのか
農業にとって水は最重要資源です。水が無ければ作物は絶対に育ちません。特に稲作が盛んな日本では、稲を水稲栽培と言う方法で育てます。つまり、田んぼです。この田んぼと言う方法は大量の水を使用します。地域によっては田植え直後の時期に河川の水位が下がるくらいに。
多くの水田耕作地帯では、田んぼで使うための水を流すために水路が整備されています。水路ではなく圧送ポンプで送水する事もあります。水路やポンプ場に近い所を『上手(かみて)』、遠い所を『下手(しもて)』と言ったりします。
何となく想像できると思いますが、水は上手側が有利です。上手で水を引いていると多くの場合、下手に水は回ってきません。田んぼに水が回って来ないと稲の生育に影響が出ます。タダでさえ安い米のデキが悪ければ尚更収益に影響が出ます。そのまま死活問題に直結します。
田んぼにはそのような有利不利関係が昔から根深く存在し、それが古からの水争いの根幹にあるのです。
自分の事しか考えてない農家は、普通に居ます!
自分の稲が良く育つ方が良いし、その為に水の管理が重要です。暑い日は多めに田んぼに水を張りたいし、逆に雨が続くなら不要な分はどんどん落としたいです。夏場の出穂期に猛暑日が当たれば、一日中かけ流しの方が良いですし、良い米を作りにはそれしかベストな方法が無いのです。そうやって水の管理を徹底すれば思うような良い米が沢山作れて自分はハッピーです。
そうです、全て自分の思い通りに良い米を作る為にそうするのです。当然ですが上記のような事をすれば下手の田んぼに十分な水は回って来ないですし、逆にガンガン落とされてしまっては、特に稲刈りの時期などいつまで経っても水がハケず、最終的に穂は倒れ低等級(最悪クズ米に…)になります。
条件の良い田んぼは村の古参や有力者が持ちます。特に高低差のある地域ではエグイくらいですね^^;。当然ですがその方が良い米が作れて収入にもなりまし、何より田んぼとして扱いやすいですから。その為に条件の悪い田んぼで苦労する人が居ても、それは別に知った事ではないので。
昨今メディアの影響で農家が聖人か何かのように礼賛される風潮がありますが、テレビでいうような地域の助け合いなんてあんまり真に受けない方が良いです。あれは実際には助け合いではなくただの同調圧力ですから。
水で争わない方法はただ一つ…
それは『農業を辞める』事です。はい、身も蓋も無い話ですが、これ以上の積極的な方法が無いのが現実です。自分が農業を辞めて、思い通りに農業を営みたい人にその道を譲ってあげれば問題は起こりません。と、同時に解決もしませんが^^;。
農村は年功序列です。長く村に住み、長く農業を営んでいる人が絶対的に優先されます。もうそれは仕方のない事です。農家に揉め事は付き物です。隣近所と揉めるのが嫌ならもう辞めるしかありません。
これも後継者問題の根幹にあるもの
今回の問題もそうですが、日本の農業は閉塞社会なので一度話が拗れると解決は不可能と考えても良いでしょう。水の問題、土地の範囲の問題、組合や団体の利権の問題…全て大きな声を出す人が得をします。
これからの農業を考える上で後継者問題が常に上がっていますが、こんな状態の農業界に一体誰が好き好んで来てくれるのでしょうか。
超高齢化社会を迎えて世代交代が困難な時代になり、後継者不足はますます加速する事でしょう。それでも農家同士の問題揉め事が後を絶たず、各農家のせがれ達はそれを目の当たりにして当然のように跡継ぎはしない。目の前で自分の親が大なり小なり揉めたり、そうでなくても隣近所様に滅茶苦茶に気を使っていたら農家なんてやりたいと思わないでしょう。
今回件のニュースを目にしてこの問題に触れてみましたが、また時間がある時に農家の人間関係について色々綴ってみたいと思います。
コメント27件
なぜ農村をなぜムラ社会と言ってバカにするのですかね。農家の人間関係についてもバカにする予定ですか?辞めるなら勝手に辞めればいいしあなたの小さなコミュニティの中で起こった事が日本全国全ての農家が体験してる事のように話す、水を回さない人と同じくらい陰湿な人に思います。そりゃ水も回ってきませんよ。
主は間違っていない
むしろこういう優秀な人間が農業を継続できない事の方が大問題
改めてコメントします
同県専業(賤業)同業者より
主はとてもフラットな見方が出来ていると思いますよ
農家の常識は世間の非常識、稲作の常識は畑作酪農の非常識w
さて、農業というカテゴリは余りにも多種多様で、私がブログを立ち上げなければ網羅できない複雑怪奇なものなので、ここではポイントを絞ってなるべく長文にならないよう努力しますw
このトピックでは「農業=稲作」「同県内の事情」という前提でお読みください
畑と田んぼの事情を混同して収拾のつかない論調になる事は良くありますね
婿殿の立場だからこそ冷静に見れているし、また責任放棄しているわけでもない、頭が下がります
そしてまともな人間だったら今稲作なんかやろうとしません
それだけネガティブ要素が多すぎるという事です
あ、あとDaiさんがあえてチャレンジングなスタンスでブログを書いている事を受け入れられない農民というのがそもそも狭量なのです
そしてそれ故に離農するのは正解なのかもしれません
あるいは同志を見つけるか
そもそも高度経済成長期からずっと抱えてきた問題がコロナ、ウクライナ、SDGsで表面化しただけなんですが、やはり目に見える形になってから皆さん取り乱し始めて、さらに自己研鑽ではなく他者への攻撃を始めるのですよね
確かに農家をちゃんと教育してこなかった農政の罪は大きいですが、そもそも農政というのはJA、農水省、時の政権、そしてアメリカ様wのせめぎ合いによって決まります
そのパワーバランスを理解せずに安直に政権批判するのはここでは避けたいと思います
米に関しては、今まで散々高い米価で美味しい思いをしてきた高齢者のノスタルジーは、今の時代通用しなくなったのです、前述の社会情勢の劇的な変化によってね
はっきり言って魚沼ブランド以外は切り捨てられました
酷い話です
そして官僚は馬鹿ではありません
表立って「じゃこれから小規模農家はスクラップしまーす」なんて言いません
巧妙に10年以上前からソフトランディングさせてます
そんな中、過去の美味しい思いが忘れられない稲作農家、余りにも光明がなさすぎるw
ブログの件に関しては県内の裏事情はちょくちょく情報入ってきますし、自分の目でもあちこち見てます
この県はブランドに甘やかされ続けた結果、栽培技術すら崩壊している農家が多すぎる
他県はみんな追いつけ追い越せで、ボケッとしてるのは県人のみ
篤農家もほぼ壊滅だよなあ
悪貨は良貨を駆逐する、です
この位の意識を持ってやらないと生き残れませんよって事です
ちなみにDaiさんが面接に来たら即採用ですね
まーまともな人間は農業やらない方がいいんじゃね、って思うけどw
賤業農家より自戒を込めて
あ、一応返信不要でw
あのー、兼業であることを卑下なさらないでください
むしろ、私はやっつけ具合では専業の方が罪深いと思ってます
2050年目標の「減減50%転作25%有機25%慣行主食米ゼロ」は前倒しになってますが、農水官僚的には渡りに船です
いつの間にか稲作農家は「人間の食い物比率が一番低い農家」になってしまったのです
やり甲斐もクソもあるかっつーのw
私は事故米平気で出荷するような拝金主義ではないので
「農地を守ってください、ただし餌米で」w
あ~わかりますね。
水問題は深刻です。
私は五反の家庭菜園で、農を業としてませんから、まあ仕方ないで済ませてます。それでもアルアルですから、農業をされている方の苦労は計り知れないでしょう。
頭が下がります。
私は、諦めているのであえて、事例をあげません。
農業は大変です。私も親が農家なら跡継ぎはお断りです。
でも、人の暮らしにとって農は豊かさだと思うのです。まあ、個人の感想かもしれませんが…
自給菜園を行う人が増えたら良いのにと思います。
でも、夢の田舎暮らしは幻想でしょうね。水問題以外も色々…
それでも敢えて農の無い生活は考えられません。
難しいとは思いますが、みんなが気楽に田畑を楽しめる時代がくると良いのですが。
Daiさん、ご苦労なされてるのですね。
周りにも気遣いしているにもかかわらず、水管理で揉める田舎の風習へのご苦労お察しします。
ただ、Daiさんのようにご苦労されている方の主張を利用して冗長してる人間がいるのも事実です。まずはいいものを作る、収益を残した上でDaiさんのように主張するのが大事だと感じます。
世間では一つの側面だけを見て、「水稲を作る人間は馬鹿だ」という人間もいますが、それもただの自己満足で、儲かってる方へのやっかみだと感じます。
こんにちは。
たまたまこのブログを発見しました。
私は趣味で畑を借りて菜園をしてますが、実際の農家の方の闇(苦労)が垣間見えました笑
私のような趣味であれば楽しいですがね。。
コメント欄も実際やられてる方の真に迫る意見があり普段のテレビとかで聞かないような話なので勉強になります。
これから他の記事も読ませてもらいます。
良いとブログを発見しました(^^)
早速のご返信ありがとうございます(^^)
全部読ませて頂きました!本当にいいブログですね。
お忙しいと思いますのでご都合が良いときにまた投稿期待してます。
そこで実際に農業をされている方にご質問が。
答えられる範囲で構いません。もし長くなりそうなら新規投稿の方でも良いのですが。
質問内容は、現状の農政を取り巻くそもそもの原因です。
私は農家とは無縁なサラリーマン家庭に育った家庭菜園好きですが、耕作放棄、後継ぎ、水問題、農業団体とかの闇(?)とかに関心がありそういった記事とか読むのですが、そもそもの現状の農家の根本の原因を考えると戦後の「農地開放」が原因だったのではと勝手に思ってます。
それ故に上記水問題等も起きるのではと。水問題って例えるなら町工場で電気を巡って喧嘩するようなものなのかなと。町工場毎に電気を巡って出来不出来があれば生産そのものの問題であり、現状の農政は余りに次元が低い争いをせざる得ない状況なのかなと感じております。
解決策としては行政主導で、農地の集約からの法人化しかないのかと、遊びでやってるものが偉そうに思ってます。。
ですが、戦前でもアメリカの農業をみた政治家が、いわゆる日本の「農業」は「工業」ではないと嘆いたっていう話もあり、農地開放は関係ないのかなあとか悶々とします。
と、農家の方の苦労も知らないものが勝手に述べました。お許しを!
パリです。こんばんは。
素人の意見に真摯にお答え頂きありがとうございます😊😊
農地開放の水問題等は確かに弥生時代からだろうなと思いました😅
行政主導も古代からの町の造り云々も確かにそうだよなと。
工業農業で農業は宗教要素は仰るとおり村の祭りから新嘗祭含め多分に宗教的要素が強いですもんね。
その上で更問させて下さい。すいません。
・農地開放の部分で「農地解放によって得たものの方が圧倒的に多いです。」の部分ですがこれは具体的にどういった事でしょうか?小作農家の方が自分の土地を取得できたことでしょうか?
・行政主導の部分で「アメリカでさえ同じ問題を抱えています」というのは良く分からなくて、各農家の集約が無理ということですかね?アメリカのイメージだと農地がだだっ広いので集約もそこまで煩雑にならないようなイメージがあります。
・工業農業の部分で「欧米では、『純粋に食料の生産」という所ですが移民国家のアメリカ、オーストラリアはわかるんですが欧州もそうなんでしょうか?
近々あるハロウィンなんかも収穫祭のイメージがあります。歴史ある国家では宗教要素と農業が絡まっているので工業になり得ないだと納得感があります。
と、重箱の隅つつくような生意気な更問ですいません。議論がしたいわけではなく普段こんな話ができないのでさせてもらってます。。
お久しぶり~
応援してるよ~w
ホント、的確すぎて農水省やJAの幹部の必読にして欲しい良ブログw。
私も管理出来ない山を売ったら、毎年やってる畑の草木焼いたのを産業廃棄物対策課に通報されて調査受けました。たかが、数十万で凄いやっかみ。
実家は20年くらい放置してあったけど、叔母さんによると3mくらい敷地削られてるとのこと。
持ってる竹藪の近くに後から土地を買収して拡張して近くにきた農家から笹が飛んできて迷惑だから撤去しろ。ここの業者なら200万円くらいでできるといきなり言われた。道際はチェーンソーで切ったけど、中は勝手にしてくれといってユンボで掘らせました。やっと不動産屋に売れてホットしました。
はい。私は親が団地に家を買って、ここ出てくれていたことに、メッチャ感謝してます。決して、母親がこっちに寄りつかなかった理由が後で良く分かりました。早く、農業って言うか農村辞められると良いですね。